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院長コラム:妊婦の脳卒中について

妊婦の脳卒中について

厚生労働省研究班の全国調査では2006年度の1年間に妊娠・出産に関連して少なくとも日本中の妊婦で脳出血が39人、脳梗塞が25人、クモ膜下出血が18人が発症したと報告され、うち10人の妊婦が死亡したと報告されました。死亡した10人のうち7人は脳出血であったということです。

高血圧で嘔吐や意識障害がおこる高血圧性脳症という病気まで含めますと妊婦1万人に1~2人程度が脳卒中を発症するという頻度で、決して頻度は多くありません。しかし脳卒中は死亡率も高く、からだの障害も残るために大変重要な問題です。

では、妊婦は脳卒中をおこしやすいのでしょうか?今までの報告を見ると決して妊娠中も非妊娠中も発症頻度は変わらないという報告が多いようです。ただ、妊娠中は胎児に血液を送るために循環血液量が増加し、妊娠7ヶ月以降は妊娠していない時に比較すると1500mlも血液量が増加すると言われています。ですから妊娠中に脳出血やクモ膜下出血がおこりやすい時期は妊娠初期ではなくて、妊娠の後半時期が圧倒的に多く、分娩時の発症は少ないと報告されています。

今回の調査では脳出血を呈した妊婦さんでは発症する前に妊娠高血圧症候群を呈した人が多いという事がわかりました。妊娠の後半期になって循環血液量が増加して、そこに高血圧が加わることで更に発症の危険性が増加するということになります。ですから妊婦さんで脳卒中を心配されるような方は妊娠中の血圧管理に十分気をつける必要があります。

また、妊娠中の脳卒中発症で問題になるのは診断の遅れです。意識障害があったり、手足の麻痺やけいれんなどの症状が出現した妊婦さんであれば、速やかに脳神経外科のあるような施設へ転送されて診断がつきます。しかし、意識が正常で手足の麻痺などがなければ判断が遅れたり、CTなどでの放射線被曝の問題からも躊躇されるケースが多く、診断の遅れにつながります。私が今まで経験したケースでも症状出現から7日かかったクモ膜下出血の症例や、2日かかった脳出血の症例などがあり、現実問題として産婦人科医だけでなく、妊婦さんやその家族もこのような事態を想定し、何かあれば早めの受診を考えてておく必要がありそうです。

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まとめ

  1. 妊婦は脳卒中になりやすいわけではありません。
  2. 脳卒中をおこしやすい時期としては妊娠後半期です。
  3. 妊娠高血圧症候群の人におこりやすいようです。
  4. 症状発現から診断までに時間がかかるケースが多いので注意が必要です。
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