池田脳神経外科TOP > 院長コラム:神経難病(3)
神経難病(3)
重症筋無力症というと、なかなか馴染みのない神経難病でした。それが1982年(昭和57年)に今はもう亡くなられた萬屋錦之介が歌舞伎座での舞台公演中に緊急入院して、診断された病気として一気に認知度が高くなりました。私より年長者の方であれば、重症筋無力症という病気を説明するにあたっては、このエピソードを話すとよく理解していただけます。萬屋錦之介は1年3ヶ月ほど入院しましたが、病気を克服して仕事復帰しております。
この重症筋無力症も難病疾患の一つで、医療費は公費助成されています。日本での患者数は約15000人で、男女比は1:2と女性に多く、発症年齢は男性では50~60歳、女性では20~30歳に発症のピークがあるといわれています。小児期の発症は稀で、平均寿命が長くなっている日本では、高齢(70歳以上)発症の患者が増加しているといわれています。
症状の特徴は、運動を繰り返すうち筋肉が疲れていってどんどん筋力が低下していくことです。最も症状がでやすいのが目の周辺の筋肉で、夕方になると瞼が徐々に垂れ下がるという症状(=眼瞼下垂)や物が二重に見える(=複視)などの症状がみられます。また話しにくさや物を飲み込みにくいなどの症状がでてきます。また、患者さんは「力を使えば使うほど力が入らなくなる。」とか「夕方になると疲れやすい。」という訴えをします。
上の図のように通常では神経の末端からアセチルコリンが放出され、筋肉の表面上にあるアセチルコリン受容体に結合して筋肉は収縮します。重症筋無力症では、アセチルコリン受容体に自己抗体ができて、アセチルコリン受容体と結合するため、神経末端から放出されたアセチルコリンが受容体に結合できなくなっている状態です。
治療としては、コリンエステラーゼ阻害剤といって神経から筋肉への信号伝達を増強する薬剤を使ったりしますが、あくまでもそれは対症療法です。
根治するためには、この病気の問題となっている自己抗体の産生を抑制したり、取り除くことです。そのために